すべてのビジネスに“移動”という新たな可能性を与えるカーリノベーション【デザイナーズファイル No.3 氏家北斗さん】
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日本初の移動式バー「BAR TRUCK MEDIA TLUX(以下、トラックス)」を設計した氏家北斗さんは、異色の経歴を持つデザイナーです。大学中退後、デザインリノベーションを行う工務店に就職し、営業職ながら施工に立ち会い、現場での経験値を積んでいきました。その後、旅行代理店に転職。コロナ禍で実質休職状態だったところ、「トラックス」の立ち上げで声を掛けられ、カーリノベーションデザイナーとしてデビューしました。
現在も会社勤めをしながらデザイナーとして活躍する氏家さんは、どのような方なのでしょうか。その人柄を探るだけでなく、新業態の「トラックス」が一体どういうものなのか、カーリノベーションの可能性についてお話を伺いました。
目次
■最初に勤めた工務店で営業ながらも現場経験を積み重ねる
―――内装やデザイナーに興味をもったのはいつ頃でしょうか?
「元々ものづくりへの興味があったので、職人になりたく工務店に就職しました。でも、大学は文系専攻でしたし、入社するまで一切建築やデザインに関わってきませんでした。当時、通信講座でインテリアデザインの資格を取得しようとしていたくらい。あ、図工の成績は5段階評価で5でしたね(笑)
工務店時代、営業としてスタートしましたが、職人さんを含めても10人ほどの小さな会社だったので、社長と一緒に現場に出ていました。大手のハウスメーカーなどでは1つの案件の中でも、営業、設計、施工と各工程で担当者が異なります。しかし、この工務店では社長の意向もあって、見積りから最後の引き渡しまで一貫して1人で担当させてもらいました」(氏家北斗さん、以下同)
―――ご自身が担当した案件の中で特に印象に残っているものはありますか?
「既にお子さまが独立された60代のご夫妻にご依頼いただいた、2階建て一軒家のリフォームが印象に残っていますね。リフォームプラン、デザインまでほぼすべて自分が関わった分、思い入れが強い案件です。元々は耐震工事の依頼でしたが、家全体が老朽化していたのでリフォームに至りました。
施工前に、奥さまが柱の傷がどうやってついたのか家族のエピソードを話してくださったのがとても印象深かったので、施工時はLDKの壁を取っ払いながらも、思い出の柱はそのままに残すリフォームプランを提案しました。工期は3ヵ月くらいかかりましたが、ご夫妻に喜んでもらえたのが嬉しかったです」
■「トラックス」でカーリノベーションデザイナーとして歩み出す
―――現在、カーリノベーションデザイナーとして活動されていますが、工務店時代にも車の内装を手掛けていたのでしょうか?
「住宅リフォームの技術は工務店で身につけましたが、車の改造や修繕はあくまで趣味の範囲で行っていた程度です。あとは職人さんがよくバンの荷台に工具棚を自作することが多く、車内部の改装を見慣れていたくらいですね。大規模なカーリノベーションに興味を持ったのは、旅行代理店に転職後、ヨーロッパで大型のバスを改装してレストランにした『レストランバス(もしくはグルメバス)』を知ったときです。これまでの自分の知見や技術を活かすことができますし、漠然とこういうのをやってみたいと思いました。そんなときに、元々知り合いだった『トラックス』店長の久保貴史さんから連絡がありました」
―――「トラックス」の立ち上げのお話ですね。そもそも「トラックス」はどのようなものなのでしょうか?
「簡単に言うと『トラックス』は日本初の“動くバー”で、トラックの荷台部分を改装して、本格的なバーカウンターと客席を設けています。扉を閉めればトラックとして走行できるので、いつでもどこでもバーを開業可能です。トラック左側側面の大きな窓と後方の扉を全開すれば、オープンエアーのカウンターに変わるので、屋外テラス席のような開放感を味わうことができます。また、バーの床が地面よりも1メートル高い位置にあるので、ハイチェアに座ったときに見える非日常的な視界は魅力です」
―――聞いているだけでワクワクしますが、どのような経緯で「トラックス」企画は始まったのでしょうか?
「聞いた話だと、元々は久保さんがノンアルコールカクテル専門のバーを計画していたようですが、コロナ禍でとん挫してしまって……。その残念会で、久保さんが “トラックで移動できるバー”の原案をふと話したところ、『それ、いいね』となり(笑)トントン拍子で話が進んだようです。それで実際にトラックを改装しようとなったときに、在学中にバーテンダーをしていて、車好きで、内装ができる僕の顔が浮かんだらしいです(笑)」
―――会社勤めをしながら、「トラックス」を引き受けたということですか?
「当時、コロナ禍で旅行代理店がまったく稼働できず、僕自身ほぼ休職状態でした。会社側が副業を解禁した背景もあり、参加できてよかったです。今回の『トラックス』をきっかけに、カーリノベーションデザイナーとしての一歩を踏み出し、やりたかったデザインを形にできました。自分は車の知識が多少あるとはいえ、修理屋などのようなプロではありません。諸々手探りでしたが、その分、色々気付かされましたし、カーリノベーションの可能性も感じましたね」
■知識・経験・感性をフル回転させて改装作業に臨む
―――トラックを改装する際に、どのような点で苦労されましたか?
「トラックの改装作業を自分たちだけで行わないといけない、という点が大変でしたね。最初はキッチンカー専門の改装屋に依頼をしようとしたのですが、ほとんどが見積り不可で断られました。というのも、キッチンカーはほぼ規格化され、サイドの窓から商品の受け渡しをするような小型トラックの移動販売車タイプがほとんどで、車体や仕様を変えることができないというのです。見積りを出してくれたところも、僕たちの希望の3割程度しか叶えられないという返答でした。。なので、久保さんと2人、意を決して工具を手に取りました(笑)」
―――すべて自分たちで作業するとなると、大変ですね…。
「窓をつくるために壁を切ったときの、“もう後には戻れない”感がすごかったです(笑) あくまでも車なので、ひとつ仕様を間違えれば、車検が通らなくなります。壁や床を、外と中の両側から叩いて慎重に切る場所を選んでいきました。壁を実際に切って開けてみないと中の配線がどうなっているかわからない点は、建物のリフォームと同じです。でも、建物と違って中古トラックは設計図がない分、駆体の情報がないので車の知識がないと太刀打ちできません。唯一の救いは、工務店時代にトラックに触れる機会が多かったので、リノベーションの対象として受け入れやすかったことですね」
―――内装面でどのような点にこだわりましたか?
「中古トラックという素材を活かすことにこだわりました。リノベーションの基本は、古くなったものをきれいにすることです。でも中古のトラックは、外も中もボコボコへこんでいて、すべて修復するのは難しい。だからこそ、経年劣化している部分を“味”として活かし、内装もエイジング加工を施しています。元々、自分が古くなったものや元の素材を活かしたデザインが好きなので、中古のトラックとは相性が良かったのかもしれません。
こだわったのは、中のバーと外側のトラックをどのように融合させていくか、“継ぎ目”の部分ですね。カウンターに座っているとバーの要素しか見えませんが、どんどん視線が遠のいていくとトラックの要素が増えていきます。どう違和感なく、バーとトラックという2つのまったく異なる要素をつなげられるかなと。そのために、敢えてトラックの荷台を固定しないようにしました。荷台の上で人が動くと車体がわずかに揺れるので、お客さま自身がトラックの上にいることを意識して体感できるようにしています」
―――バーカウンターでこだわった点はありますか?
「店長の久保さんはもちろん、僕もバーテンダーの経験があるので、カウンターの効率性・機能性をどう上げるか、突き詰めました。どんなに飲食業の内装経験が豊富な人でも、バーテンダーが欲しているカウンターを理想通りつくるのは難しいものです。また店舗用の一般的なカウンターは壁から客席まで最低1800ミリが必要とされていますが、2トントラックの横幅は1760ミリしかないので、そのまま入れるとはみ出てしまいます。必要な要素を残して、どれだけサイズを詰めることができるか。でも詰めすぎると閉そく感が出てしまうので、久保さんと2人で悩みながら設計しました。そのおかげで、スタッフの方には少し狭い思いをさせてしまっていますが、お客さま側はあまり狭さを感じないと思います」
■新ビジネスの可能性を秘めるカーリノベーションでお客さまと一緒に挑戦したい
―――「トラックス」デビュー以降、反応はいかがでしたか?
「おかげさまで『トラックス』への反響は大きく、(2012年10月)現在4車両が稼働しています。2021年には、グッドデザイン賞と審査員賞をいただきました。またカーリノベーションのご依頼もいくつか頂いています」
―――「トラックス」を踏まえて、カーリノベーションによる店舗運営の強みとはどういったところにあると思いますか?
「どこでも店舗をオープンできるのは強みですね。環境に依存せずに、ガス水道電気などはすべて利用できるので、飲食業としての稼働は問題ありません。コロナ禍という状況下でも営業できているので、通常の状態に戻れば、音楽フェスやキャンプ場など多くのシーンで活躍できると思います。
もうひとつ、コストの低さもメリットではないでしょうか。2トントラックの荷台部分だけで専有面積は10~12坪ありますが、同じ面積のテナント店舗よりも初期費用・運営費用ともに抑えることができます。また、コロナ禍において多くの飲食業者は我慢を強いられましたが、『トラックス』の業態であれば、いざというときに郊外の月極駐車場に入れて休眠させることも可能です」
―――反対にデメリットはありますか?
「しいて言うのならば……というレベルですが、スペースの狭さはデメリットですね。システムキッチンは入らないので、本格的な料理の提供は難しいと思います。また、出店する場所によっては火気厳禁など制約があるという点も挙げられるのではないでしょうか」
―――『トラックス』の今後どのように発展していくのでしょうか。
「同じ形態をとるのであれば、今後10トンサイズなど大型トラックに挑戦してみたいですね。面積も広がるので、例えばクラブのような箱をつくって奥側にVIP用個室、手前にカウンターとスペースを分けることもできます。小型トラックでは機能性を追求するだけで終わってしまいますが、大きいと遊ぶ余地が出てくるので、さらに面白い企画を立ち上げることができそうですよね。
また、トラックの荷台部分をひとつの部屋として捉えると、飲食業以外にも色々チャレンジできるため、可能性を感じています。移動式のオフィスや、移動式のショールームとか、『トラックス』のように“移動”というオプションを加えるだけで、新たなビジネスチャンスが生まれると思うんですよね」
―――カーリノベーションは色々な可能性を秘めているんですね。
「『トラックス』自体が割とハードな改装作業だったので(笑) ある程度のことは叶えられると思いますね。でも僕たちだけではまだ何ができるか検討中でアイディアが乏しいので、色々ご相談いただきたいです。カーリノベーションで、まだ日本にない新たなビジネスを創造できるのであれば、オーナーさんと一緒に挑戦させてもらいたいですね」
■まとめ
コロナ禍という逆境の中で、「トラックス」という新たなビジネススタイルの具現化に成功した氏家さん。カーリノベーションに興味がある方、車というツールを使って新たなビジネスチャンスを模索したい方は氏家さんに相談してみてはいかがでしょうか。
気になる方はぜひデザリノまでご相談ください!
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