シンプル×緻密なデザインで施主の想いに応えたい【デザイナーズファイル No.2 小林圭介さん】
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デザイナーの小林圭介さんは、株式会社乃村工藝社を経て2016年に独立し、インテリアデザイン会社neighbor.incを設立。2017年からは照明ブランド「ON」を発足し、照明プロダクトの企画・開発から販売まで、自社で行っています。
オフィス、飲食店、アパレルショップ、サロン・フォトスタジオなど、商業空間を幅広く手掛ける小林さんは、どのような方なのでしょうか。その人柄やリフォームに対する想いを探るべく、お話を伺いました。
目次
棟梁だった祖父に憧れて建築の世界に興味を抱く
多摩美術大学にてインテリアデザインを学び、デザイナーとしての道を歩みはじめた小林さん。そもそも建築自体に魅せられたのは、大工の棟梁だった祖父の影響だったと話します。
「幼い頃から祖父の工場にしょっちゅう遊びに行っていました。威厳たっぷりな祖父や、ものづくりをしている職人の姿は、単純にカッコよかったですね。でもいざ自分の進路を決めるときになって、当時通っていた高校が私服で、おしゃれにも興味があったので……店舗の内装をやりたいって考え直しました(笑)。 もともと一般大学の建築科を受ける予定でしたが、美大に進路を変更しました」(以下、カッコ内の発言は小林さん)
大学卒業後、小林さんは新卒で店舗施工業界の最大手である株式会社乃村工藝社に入社。「スターバックス リザーブ(R)ロースタリー 東京」「MUJI HOTEL GINZA」「東京ミッドタウン日比谷」など、東京のランドマークとなるような大型施設を手掛ける会社で、当時はどのような空間設計に携わっていたのでしょうか。
「乃村工藝社の手がける範囲は幅広く、美術館といった文化施設、商業施設、授賞式などさまざまで、施設の形態ごとにチームが組まれて案件を請け負っています。僕はその中でも物販専門店のチームに配属されました。新人の頃は上司が赤入れした図面の修正や、壁紙のサンプル集めなどをしていて、4,5年目くらいから商業施設のテナント店舗などの案件を任されるようになりました。8年間在籍していましたが、最後のほうはフレッド・シーガルの旗艦店(代官山・閉店済み)を担当しました。」
大手企業ならではの安定感。でも自由に、色々なことに挑戦したい
小林さんいわく、デザイン事務所で経験を積んだ後に独立することが、インテリアデザイナーにとって一般的なキャリアパスなのだとか。業界最大手に就職して責任のある仕事を任されたものの、30歳のときに「今後このままで良いのか」と自分のキャリアを見つめ直したそうです。
「入社当時から独立への想いはありましたが、正直ずっと迷っていました。大手にいるからこそ面白い案件に携われる、けれども独立にもチャレンジしてみたい。30歳くらいのときに、会社で高みを目指すか、独立するか、そろそろはっきりさせようと考えたのです。
独立に踏み切ったきっかけらしいきっかけはありません。ただ、施主さまはデザイナーの僕を信頼してくれているけれども、それ以前に僕の背後にある会社を見ています。“乃村工藝社”というビッグネームへの安心感があってこその依頼です。そんな大手ならではの窮屈さから漠然と“自由になりたい”という気持ちがありました」
2016年に小林さんは、飲食店を専門としていた大学の後輩とともにneighbor.incを設立し、独立を叶えました。以降、インテリアデザインの枠に留まらず、ブランディング、ショップ・ロゴのグラフィックなど、提案の幅を広げています。
「インテリアデザイナー本来の仕事は内装のみですが、もっと色々なことを積極的にやれたら面白いなという想いが、neighbor設立当初からありました。インテリアデザインってショップづくりの全体像で見るとフローの後半にあるので、コンセプトやロゴが完成した状態で渡されることが多いんですね。それらを制作した経緯がわからないまま、素材を使って空間をつくりあげていくと、やれることは限られます。
でもショップづくりの最初から自分が関与できれば、コンセプトから商品、店舗空間まで一貫して、来店されたお客さまに見せることができるので、ショップとして強いメッセージを発信できるんじゃないかと。そのためにちょっとずつ自分の幅を広げようと色々チャレンジしています。グラフィックも独学ですし(笑) でも主軸はきちんとインテリアデザインに置いて、色々やってみた結果を、空間設計のブラッシュアップにつなげたいと考えています」
徐々にチャレンジの幅を広げる中で、2017年に照明ブランド「ON」を立ち上げました。シンプルなデザインながら、職人の手のぬくもりと造形美を同時に感じる「ON」の照明。どのようなきっかけではじまったのでしょうか。
「企画が本格的に動き出したのは、商品の卸売をできるメンバーが新たに加わってからです。もともと家具の自社ブランドをつくって販売したいという想いや、空間設計する上で既製品の照明に使いやすいものがないと普段感じていたことも動機としてありました。新メンバーが前職で特注の照明を制作したツテがあったので、職人さんを紹介してもらったのがきっかけです」
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「職人さんの工場を拝見して回ったときに、素材や技術がこれだけ良いのであればシンプルな形で表現したほうが良いと考えました。『ON』の照明で扱っている素材は、少し扱いづらいのも特徴です。ガラスって割れる心配もあるし、重みもある。木工挽物の照明は、本来仕上げに油を塗るんですけど、木の質感を優先するために削りだしのものを販売しています。気遣いが必要なつくりですが、“手のかかるほどかわいい”というように愛着をもっていただけたらうれしいです」
お客さまのご要望を読み取り、シンプルな表現で応えたい
小林さんが得意とするのは、どのようなデザインなのでしょうか。
「僕はミニマルでシンプルなデザインが得意ですし、単純に好きですね。ご提案の際には、施主さまがどうしたいのか要望を読み取ったうえで、それに対する答えをシンプルな形で表現したい。
要望に色々応えるためにデコラティブにしすぎると、施主さまの本来の想いにどんどんノイズが入ってしまいます。とはいえ、シンプルすぎる空間ものっぺりした印象になってしまうので、細部までしっかり気を遣うよう意識しています。だから大きなサイズよりも小さな空間のほうが得意ですね(笑)
施主さまの要望に徹底的にアプローチするため、デザインを考える前段として、ヒアリングした内容をひたすら文章や言葉にして書き出します。それはもう大量に書きますね(笑)
それらをさらに研ぎ澄まして、最終的に設計を進めるうえで“軸”や、“目指すゴール”にします。もちろん、施主さまのお好みに合わせてデザインを変えることもありますが、あくまで軸から外れない範囲です。個人の好き嫌いでデザインが取捨選択されてしまうと、結果的に要望から離れてしまうので、きちんと施主さまとゴールを共有したうえで打ち合わせを進めていきます」
お客さまの大胆なアイデアを形にしたベーカリー&カフェバー「panda」
そんなお客さまの要望を、わかりやすくデザインとして体現したショップが本郷三丁目にあります。「panda」は、昼はベーカリー、夜はカフェバーという珍しいスタイルのお店で、こちらを施工した際、小林さんは施主さまの思い切ったアイディアをお店のカウンターに込めました。
「“本郷3丁目にパン屋がないからつくってみたら良いのでは?”、“夜もカフェバーで、パンをおまけでつけたらロスが減るのでは”という施主さまの大胆なアイデアから生まれたのがこのショップです。もともと建築関係の仕事をされていた方で、飲食系が専門でなかった分、こんな面白い発想が生まれたんだと思います(笑)」
「設計する際、1つの空間に昼と夜の別々の顔をもたせるために、カウンターを店舗空間の主役に据えました。昼は、パンの陳列棚として活用し、カウンターの奥で店員がお客さまの代わりにパンを取って接客をします。夜はパンのトレーを片づけ、ハイチェアを置いてバーカウンターに変身させます。カウンターに2つの役割をもたせ、人の動線とオペレーションをちょっと工夫するだけで、同じ空間に別の業態を共存させることができました」
リフォームのテクニックがつまった写真スタジオ「A-Studio 代官山」
東京・代官山にある写真スタジオ「A-Studio 代官山」でも、小林さんならではのデザインを見ることができます。写真家である施主さまに、撮影時の様子や、撮影したい写真の構図、広角レンズの画角などを細かくヒアリングし、現場で検証を重ねたうえで、3種類のスタジオ空間を施工されたそうです。
「『大正ロマン』と『アメリカンヴィンテージ』は映画のセットのような塗装をするエイジング屋さん(特殊塗装業者)に仕上げの塗装をお願いしました。スタジオの背景といえども本物感を出したかったんです。自然に風化していったようなリアルな表情を追求するため、細部まできちんとこだわっています。
2つのセットは同じ空間内にあるので、それぞれの家具や装飾を変えながら、色味を統一しています。そうすれば撮影時、背景に他のセットが入り込んだとしても、遠景にぼかしを入れれば色味が自然になじんで1つの空間に見えます。そんな工夫もしました」
この案件を引き受けた際、施主さまからは「家族で特別な時間を過ごすことができるように“プライバシーを重視したい”」という要望があったそう。小林さんはどのようにお客さまの希望を叶えたのでしょうか。
「エントランスの受付から、撮影スタジオ、画像をチェックできるモニター部屋、そしてまた受付へ続く動線を、グルッと円状に配置しました。そうすれば撮影が進むごとに、お客さまは次の部屋へ一方向に進んでいきます。撮影時間は大体2時間なので、1時間半ほど時間をずらせば、お客さま同士が鉢合わせることはありません。受付のすぐ横にあるモニター部屋も、ブラインドを下ろせば独立した部屋になるので、エントランスに他のお客さまがいてもやり過ごすことができます」
「僕なりのこだわりとして、エントランスにも力を入れました。本来、撮影スタジオが空間の主役なので、エントランスはサブ的存在です。しかし来店されたお客さまにとっては、エントランス=店舗の第一印象です。そこが整っているとショップにとってすごく強みになります。スタジオを“撮影セット”に見立て、エントランスは “ハリボテの裏側”風に、杉の角材を格子状に合わせました。舞台の裏側なのでシンプルな構成ですが、見栄えがするようにしっかりデザインしています」
言語化できない「心地良さ」をデザインでわかりやすく伝えたい
お客さまの要望を着実に叶えるため、小林さんは「どのような店舗にしたいか」「なにをしたいのか」などの純粋な動機を教えてほしいと話します。
「デザインするための“とっかかり”が欲しいんです。それがうまく言葉にできないときは、実際にある店舗を教えていただければ一緒に見に行くこともできます。そこから掘り下げて、施主さまの要望を言語化し、その要望を叶えるためには“こんなシチュエーションが必要なのではないか”など、色々ご提案していくのが僕らの仕事です」
コロナ禍の自粛期間中、自分たちで壁紙を張り替えるなどのDIYが流行していますが、小林さんは「リフォームをインテリアデザイナーに依頼することには多大なメリットがある」と言います。
「建築やデザインに知見のない一般の方は、空間の良し悪しをうまく言葉にできないものです。例えば、テーブルとイスの高さがいまいち合っていなくても、普通に生活はできてしまいますよね。ただ、言葉にうまくできなくても、感性はしっかり働いていて、ストレスは着実にたまってしまいます。それが店舗であれば、言葉にはできない、その人にもよくわかっていないストレスで自然と足が遠のいてしまうので、来店客数や売上に影響が出ます。
すごく曖昧なものなんですけど、空間を“整えていく”というのはとても大事なことです。人が感じる心地よさのうち、言語化できていないものが8割と言われています。そのうちの1割くらいなら、がんばれば言語化できるんじゃないかなと思っています(笑) わかりやすくシンプルに、言葉に表せるような心地よさをデザインしていきたいですね」
まとめ
「さまざまなことにチャレンジしたい」と意欲的な小林さん。気さくにさまざまなエピソードを話してくださいました。引き出しの多い小林さんにご相談すれば、広い視野をもってさまざまな角度からショップのデザインを提案してもらえそうです。
店舗リニューアルをお考えの方は、ぜひデザリノまでご相談ください!
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